「マウスピース矯正なら目立たないし、子供にも負担が少ないかもしれない」
そんな期待から、ワイヤー矯正ではなくインビザラインの治療を検討しているのではないでしょうか。
たしかに、インビザラインは見た目や快適さの面では魅力的な治療法です。
しかし実際には、ご家庭でのサポートが不可欠であり、親の協力なくしては治療がうまく進まない場面も少なくありません。
この記事では、治療を始める前に押さえておきたいポイントや、親として果たすべき具体的な役割について、丁寧に解説します。
「うちの子に本当に合っているの?」「ちゃんと毎日つけてくれるのか心配」
そんな不安を抱えている方は、まず必要な情報を整理し、判断材料を揃えたうえで、歯科クリニックに相談してみてください。
子供が対象のインビザライン・ファーストとは

「インビザライン・ファースト」とは、透明なマウスピース型の矯正装置を使った、小児向けの歯列矯正治療です。
治療は、1〜2週間ごとに新しいマウスピースへ交換しながら、段階的に歯を動かしていきます。
これまでの小児矯正では「顎の成長を促す治療」と「歯並びを整える治療」を別々に行うのが一般的でしたが、インビザライン・ファーストではこの2つを同時に進めることができます。
乳歯と永久歯が混在する6〜10歳頃の「混合歯列期」にある子供が対象です。
上下の前歯が生えそろったタイミングで治療を始め、期間はおよそ半年〜1年半程度が目安です。
第一期治療では、顎の発育をコントロールしながら前歯の並びも整えていきます。
すべての永久歯が生えそろった後は、必要に応じて第二期治療(本格矯正)に進む場合もあります。
インビザライン・ファーストは、歯並びの改善にとどまらず、将来的な抜歯の回避や、治療期間・費用の軽減にもつながる「土台づくり」の治療として位置づけられています。
インビザライン・ファーストの適応条件

インビザライン・ファーストの治療を始められるかどうかは、年齢だけでなく歯の生え方や口腔内の状態によって決まります。
治療を受けるには、次のような条件を満たしている必要があります。
- 第一大臼歯(6歳臼歯)が上下左右のいずれかに1本以上生えていること
- 前歯(切歯)が2本以上あり、それぞれの歯が歯ぐきから2/3以上見えていること
- 歯列を右上・右下・左上・左下の4つのブロックに分けたとき、3ブロック以上に乳歯の犬歯または奥歯が残っていること
- 上下どちらかの顎において、4分の3以上の範囲に乳歯またはまだ生えていない永久歯が2本以上あること
これらの条件を満たしていても、成長のスピードには個人差があるため、年齢が適応内でも歯の状態によっては治療ができない場合もあります。
治療可能かどうかは、歯科医師に口腔内の状態を詳しく診察してもらいましょう。
インビザライン・ファーストのデメリット

ここでは、治療を始める前に知っておきたい5つのデメリットについて詳しく解説します。
ご家庭での準備やサポートが必要となる場面もあるため、検討段階でしっかりと理解しておきましょう。
適応条件が厳しい
インビザライン・ファーストを受けるには、年齢だけでなく歯の生え方や顎の発育状態など、細かな条件を満たす必要があります。
たとえば、永久歯への生え変わりが早く進みすぎている場合、対象年齢内であっても治療が受けられないことがあります。
また、重度の出っ歯や受け口、顎の骨格に大きな異常がある場合も適応外です。
重度の不正咬合や骨格的な問題があるケースでは、ワイヤー矯正など他の治療法を検討してみましょう。
治療費用が保険適用外である
インビザライン・ファーストは自由診療のため、健康保険は適用されません。
治療費の目安はおおよそ40〜80万円程度で、通院するクリニックによって金額は異なります。
治療に必要なマウスピース本体のほか、再診料・調整料・マウスピースの再製作費用が別途かかる場合もあるため、治療前の見積もりで確認しましょう。
一部の重度症例(顎変形症や先天的に歯が足りない場合など)では、ワイヤー矯正に限って保険が適用されることがありますが、マウスピース矯正は現在のところ保険適用外です。
装着時間を守る必要がある
マウスピースの装着時間は1日20〜22時間が目安です。
食事と歯磨きの時間以外は、学校や外出先でも装着を続けなければなりません。
特に学校では、給食のときにマウスピースを外し、食後に歯磨きをして再装着する一連の流れを、子供自身で実行する必要があります。
この装着時間が守られないと歯が計画通りに動かず、治療が思うように進まないだけでなく治療期間が延びてしまう原因にもなります。
マウスピースを洗浄しないといけない
マウスピースは、朝と夜の1日2回以上、丁寧に洗浄することが推奨されています。
清潔な状態を保つために、専用の洗浄剤や超音波洗浄器を使うと効果的です。
洗浄を怠ると、マウスピースに細菌や汚れが付着し、虫歯や歯周病、口臭の原因になります。
毎日の歯磨きとあわせて、マウスピースの洗浄も習慣に取り入れ、清潔な状態を保ちましょう。
マウスピースを失くす可能性がある
インビザライン・ファーストのマウスピースは取り外し式のため、食事や歯磨きのたびに装置を外す必要があります。
その都度、専用のケースに入れて保管する習慣をつけなければ、紛失や破損のリスクが高くなります。
また、外したマウスピースをポケットやティッシュに入れると、そのまま忘れてしまい、気づかないうちに失くすことも多く見られます。
マウスピースをなくしたり壊したりすると、再作製が必要となり、治療が遅れたり追加費用が発生したりするケースがほとんどです。
こうしたトラブルを防ぐために、マウスピースを外したら必ず専用ケースで管理する習慣を身につけさせましょう。
インビザライン・ファーストのメリット

インビザライン・ファーストには、見た目や通院のしやすさだけでなく、顎の成長段階に合わせた柔軟な治療ができるという大きな利点があります。
ここでは、治療を検討するうえで知っておきたい5つの主なメリットを詳しくご紹介します。
着脱が可能で見た目に影響が出ない
インビザライン・ファーストは透明なマウスピース型の装置を使用するため、装着中も目立ちにくく、見た目への影響が少ないのが特長です。
写真撮影や学校生活の中でも矯正装置が気にならず、子供がストレスを感じにくい設計となっています。
また、装置は自分で取り外しができるため、運動や楽器演奏・学校行事など、生活のさまざまな場面に合わせて柔軟に対応できます。
抜歯が必要ない
治療では、顎の成長を利用して歯列を広げていきます。
永久歯が生えるためのスペースを自然に確保できるため、将来的に歯を抜く必要がないケースが増えるのが大きなメリットです。
特に、第一期治療の段階で十分なスペースを確保できれば、第二期の矯正治療においても非抜歯で対応できる可能性が高くなります。
幼いうちに顎の成長を促せる
インビザライン・ファーストは、顎の前後・左右のバランスを、成長に合わせて整えることが可能です。
この段階で治療を行うことで、将来的な骨格のズレや咬み合わせの問題を防ぐ手助けになります。
また、指しゃぶりや舌癖といった悪習癖の改善も促しやすく、顎の自然な成長を正しい方向に導く効果が期待されます。
そのため、結果として骨格の健やかな発育をサポートする治療にもつながります。
歯が移動する時の痛みが少ない
マウスピース矯正は、持続的で弱い力をかけて歯を動かす設計になっているため、ワイヤー矯正と比べて痛みが少なく、装着時の違和感も軽減されます。
また、装置の形状がなめらかで粘膜にやさしく、装置が口の中を傷つけにくいため、口内炎などのトラブルも起こりにくいのが特徴です。
治療期間が短い
インビザライン・ファーストでは、顎の成長を促しながら歯列の調整も同時に進めることができます。
このため、従来の2段階治療(第一期治療:顎の治療/第二期治療:歯列の矯正)と比べて、全体の治療期間が短くなるケースもあります。
第一期治療が順調に進めば、第二期治療が不要になる場合もあり、トータルの治療負担を軽減することが可能です。
結果として、通院回数や治療費が抑えられるメリットも得られます。
インビザライン・ファーストに関するよくある質問

治療費・虫歯リスク・使用時の注意点・治療後のケアについて、特に気になるポイントをQ&A形式で解説します。
治療費はどのくらいですか?
インビザライン・ファーストの治療費は、おおよそ40万〜80万円程度が目安とされています。
費用は地域や通院するクリニックによって異なります。
また、初回の精密検査費用や定期的な調整費用、マウスピースの再製作費用などが別途発生する場合があるため、事前に見積もりを確認しましょう。
なお、自由診療のため健康保険は適用されません。
虫歯のリスクは高まりますか?
インビザライン・ファーストのマウスピースは食事や歯磨きの際に取り外すことができるため、口の中を清潔に保ちやすいという特徴があります。
正しく洗浄し、毎日のケアができていれば、虫歯や歯周病のリスクはむしろ低く抑えられます。
ただし、マウスピースや口腔内の清掃が不十分な場合にはリスクが高まるため、ケアの習慣化を促す必要があります。
マウスピースをつけたまま飴を舐めても大丈夫ですか?
飴やガムなど、糖分を含む食品をマウスピース装着中に口にするのは避けてください。
糖分がマウスピース内に残ることで、虫歯の原因になりやすくなります。
原則として、マウスピースを装着したままの飲食はNGです。
飲み物についても、水以外の飲料(ジュースやスポーツドリンクなど)は必ず外してから摂取するようにしましょう。
治療後はどうなりますか?
インビザライン・ファーストで歯並びを整えたあとは、後戻りを防ぐために「リテーナー(保定装置)」を使う必要があります。
リテーナーは就寝時の装着が基本で、数ヶ月〜数年にわたって使用を続けるケースが多いです。
治療後も、定期的に歯科医院に通って後戻りの有無や噛み合わせの状態をチェックしてもらうことが大切です。
まとめ
インビザライン・ファーストは、見た目への影響が少なく、子供にとっても取り組みやすい矯正治療のひとつです。
成長期を活かして顎の発育を整えながら将来的な抜歯リスクを減らすなど、多くのメリットがあります。
一方で、治療を成功に導くためには、親のサポートが欠かせません。
適応条件の確認や毎日の装着管理、清掃のサポート、定期的な通院など、ご家庭での役割は決して少なくないためです。
お子さまにとって無理のない治療計画を立てるためにも、まずはインビザライン・ファーストについて正しく理解し、ご家庭でできるサポート体制を整えることが大切です。
不安や疑問がある場合は、歯科医師に相談しながら、納得のいく選択をしていきましょう。